アース製薬株式会社 様
アース製薬に学ぶ経営基盤革新の手法
~データに基づく迅速な意思決定が可能に~
虫ケア用品・日用品の大手メーカーのアース製薬はスクラッチ開発した経営管理システムを刷新し、迅速な経営の意思決定を支える「データ・プラットフォーム」を新たに構築した。これによりリアルタイムな経営状況の見える化を実現し、データの民主化も進んでいる。事業・商品カテゴリごとの収益分析も可能になり、経営判断や意思決定への貢献度も大きい。ビジネス環境の変化に伴う機能追加や設定変更にも柔軟に対応できるという。システム刷新の経緯や成果についてキーパーソンに話を聞いた。
- 目次
新収益認識基準に対応し、経営状況を見える化する
2025年に設立100周年を迎えるアース製薬。「生命(いのち)と暮らしに寄り添い、地球との共生を実現する。」という経営理念のもと、人々の健康と生活の向上に貢献する多様な製品を開発・提供している。
液体蚊とり「アースノーマット」などのロングセラーブランドを擁する虫ケア用品(殺虫剤)は国内トップシェアを誇る。近年は入浴剤、オーラルケア製品など日用品事業の多角化とともに、事業のグローバル展開を加速している。さらにオープンイノベーションで進めるMA-T※事業の推進にも積極的に取り組んでいる。
※Matching Transformation Systemの略。日本発の革新的技術である酸化制御の仕組み(システム)
こうした成長戦略の推進には、迅速かつ的確な経営判断が欠かせない。しかし、同社の経営管理システムは15年以上前にスクラッチ開発したもの。「経営層向けの月次レポートはPDF帳票。データを有効活用するためにもデジタル化の必要性を痛感していました」と同社の経営戦略本部 本部長である郷司 功氏は課題を述べる。
| 情報の粒度にも問題があった。例えば、売り上げは順調なのに収益が伸びていない――。既存の月次レポートだけでは、何が収益を圧迫しているのかが分からない。「販管費や人件費の比率が上がった。為替変動による影響を受けた。要因はいろいろ考えられますが、『なぜ』を明らかにするためには、必要なデータを集め、人手で集計・分析しなければならない。その作業に時間がかかり、経営への報告がタイムリーに行えなかったのです」と同社の早川 毅氏は打ち明ける。
新規事業を立ち上げれば、帳票に科目を追加するなど、システムは適宜修正していたが、既存システムを開発した当時の事業は大きく3事業2カテゴリに分類されていた。事業の多角化・グローバル化に伴い、現在は8事業7カテゴリにまで拡大している。「追加、追加の対応はもはや限界。仮にシステムを改修しても、アウトプット情報が帳票に収まりきりませんでした」と同社の三島 理沙氏は振り返る。 |
アース製薬株式会社
上席執行役員
経営戦略本部 本部長
郷司 功氏
加えて2021年から上場企業に適用される「新収益認識基準」への対応も急務だった。これは売り上げに関して「従来は費用として計上していた販促費を売り上げから控除し、正味の売上高を財務諸表上に反映する」基準。国際的な会計基準に合わせた開示を求める資本市場に対して、上場企業に開示が義務付けられたものであり、避けて通れないものだ。
「この新収益認識基準への対応をはじめとする経営環境の変化や、多角化・グローバル化などの経営戦略に柔軟に対応する仕組み、戦略立案のための迅速なデータ分析を実現するための経営管理システムが必要だと考えていました」と郷司氏は語る。
スピードと柔軟性を発揮する設計思想に共感
多様なデータをデジタルでつなぎ、新収益認識基準に対応してタイムリーな収益状況を可視化する。これは既存システムの修正や拡張では、もはや対応できない。そこで同社は新たな「データ・プラットフォーム」の実現を目指した。
そのパートナーに選定したのがラキールだ。「ラキールはマイクロサービスアーキテクチャによってソフトウェアを部品化し、それらを組み合わせること、そして部品の再利用を実現する設計思想を提案していて、そこに共感しました」と郷司氏は理由を述べる。マイクロサービスアーキテクチャは、小さなサービスの疎結合によってシステムを構築していく手法。ゼロから作る場合に比べて、圧倒的に速い上、将来的にも既存資産を継続的に生かすことが可能になる。
アース製薬がラキールのソリューションを導入するのは、実は今回が初めてではない。働き方改革の推進に向け、2019年に「LaKeel BI」を導入し、勤怠管理と働き方に関するテンプレートを活用して実現した。「この時のプロジェクトは企画から導入までわずか3カ月。この速さに驚きました。当社はビジネスのスピードを非常に大事にしており、重要な行動指針。データ・プラットフォームでも必要なシステムを短期間で実現できるスピードに期待しました」と郷司氏は続ける。
導入後の運用は自部門で進めていく方針を固めていた。技術的な部分で情報システム部のサポートは不可欠だが、要件定義など設計思想構築の主管は経営戦略部だ。「システム稼働後もビジネス環境やニーズの変化に柔軟に対応するためです。ラキールのソリューションであれば、高度なプログラミングスキルがなくても開発・保守を行える。これも重要な選定ポイントになりました」と早川氏は語る。
データ・プラットフォームの核になるデータ統合分析基盤には「LaKeel Data Insight」を採用した。一般にデータ分析基盤はデータレイク、データウェアハウス(DWH)、データマートという3層構造で成り立つ。しかし、3つの階層を個別に構築してしまうと、データ連携が複雑になり、データの質も低下しかねない。
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アース製薬株式会社
経営戦略本部
経営戦略部 部長
早川 毅氏
その点、LaKeel Data Insightはこの3階層を実装した統合的な基盤。企業内に点在する大量のデータを継続的に収集・集約し、業務担当者がアナリティクスに活用する「データの民主化」も実現できる。多様なAPIを実装し、連携できるシステムやデータ形式も幅広い。
このLaKeel Data Insightが外部データベースと連携し、多様なデータソースを集約・変換する。生成した経営情報はLaKeel BIでレポート化。外部アプリケーションと連携することで、イベントドリブン型の業務処理を自動実行することも可能だ(図)。
図 データ・プラットフォームの全体イメージ
連携アプリや外部から取り込んだデータを変換・連携処理し、容易にデータ統合が可能だ。整理・分析したデータのレポート化、イベントドリブン型の業務の自動化などデータの活用範囲も広がる
データの見せ方やその実装方法を伴走支援
プロジェクトは2020年10月よりスタートした。まず財務帳票関連の要件定義を実施し、これに基づいてLaKeel Data Insightをベースとするデータ分析基盤を構築。さらにLaKeel BIによるレポート作成機能を実装し、2022年8月より運用を開始した。新収益認識基準の適用に向けた他システムの改修と同期させ、約2年をかけて8つの事業の経営状況の見える化を実現した。
その後、2022年10月より、商品別の収益状況表など追加帳票を順次開発・リリースしていった。
経営状況の見える化は経営層の判断や意思決定の支援だけでなく、事業を担う現場のデータ活用を促す狙いもある。収集するデータや分析軸、その分析結果の見せ方などは現場にヒアリングを重ね、現場にとって使いやすい形を考えていった。
| 経営層や現場がどういうデータを求めていて、それをどのように見せればいいか。要件をシステムに落とし込むためには、どうすればいいのか。この作業はラキールが伴走支援した。「なるべく情報システム部に負担をかけないよう、経営戦略部が中心となって要件定義から行いました。この経験は初めてでしたが、ラキールは丁寧に、根気強く対応してくれました。私たちがやりたいことをスピーディに実現できたのは、LaKeelシリーズの柔軟性だけでなく、ラキールの伴走支援があったからです」と三島氏は話す。
連携するアプリケーションや外部データソースなども順次追加していき、すべての追加開発・リリースは2023年4月に完了した。2024年7月現在、マスタデータの規模は4システム/12テーブルで最大データ数は170万件強。トランザクションデータは4システム/6テーブルで最大データ数は4000万件強。膨大なデータ量を安定運用している。 |
アース製薬株式会社
経営戦略本部
経営戦略部 課長補佐
三島 理沙氏
データドリブン経営にシフトし意思決定をさらに迅速化
データ・プラットフォームの実現によって、同社は様々なメリットを実感している。まず挙げられるのが、8つの事業すべてについて、経営状況の洞察が深まったことだ。新収益認識基準に対応したことで、全社での収益管理基準が統一され、事業別の収益構造がより詳細に可視化された。
事業軸だけでなく、商品軸でも収益性の分析が可能だ。「例えば、あるカテゴリの収益が上がっている/下がっている要因は何なのかをドリルダウンしていくことで、影響要因が見えやすくなる。状況の改善にはどんな手立てが必要か、商品の販売動向を基に、現場の担当者がマーケティング施策や営業展開を考える。そんな活用も可能になりました。」(早川氏)。
経営をサポートする経営戦略部の業務も劇的に効率化された。以前のシステムでは月次レポートで商品軸の収益性を見ることはできなかったため、担当者が集計・分析して月次レポートとは別に報告していた。「単品の収益を集計する作業は属人化し、半月程度のリードタイムが必要でしたが、今はデータさえ揃えば、集計レポートの完成まで1日で済みます」と三島氏は語る。
データ・プラットフォームの情報は全事業部が確認できるため、データの民主化も進んだ。部門長には管理会計レポートも開示している。「事業別、カテゴリ別の収益がより詳細に見えるようになったことで、部門長との予算や戦略の協議が活発になりました。データドリブン経営に向けた土台が整いつつあります」と郷司氏は期待を寄せる。
今後はデータ・プラットフォームの現場活用をさらに促進するとともに、集計データや帳票の見やすさ・使いやすさの向上を図る。その一環として、ダッシュボード機能の強化を考えているという。
データ分析作業にAIの活用も検討している。勘や経験に依存せず、データ分析作業を効率化できるからだ。様々な分析パターンを得ることで、経営判断や施策立案の選択肢も広がる。拡張性の高いマイクロサービスアーキテクチャのメリットを生かせば、その実装もスピーディに行える。「データドリブン経営を支えるデータ分析基盤の強化に向けて、ラキールの提案とサポートには今後も大いに期待しています」と郷司氏は話す。
LaKeel Data Insightを軸にデータ・プラットフォームを実現したアース製薬。同社はこのプラットフォームのさらなる有効活用を図り、データを武器に、事業の多角化とグローバル化を力強く推進していく考えだ。
日経BPの許可により「日経クロステック special2024年9月25日」に掲載された広告を抜粋したものです。禁無断転載