【企業向け】AIエージェントとは?生成AI・RPAとの違いから、大手企業が直面する「連携の壁」を突破する導入戦略まで

ChatGPTをはじめとした“対話型”の生成AIが企業に浸透し、メール作成や要約といった知的作業の効率化は進みました。しかし、人が問いかけ、AIが回答するだけでは、システム操作や業務の完遂といった「実行」は依然として人手に残されたままです。
いま世界のトレンドは、対話型AIから、目的に沿って自律的に動く「AIエージェント」への急速なシフトです。
本記事では、AIエージェントの基本概念や大手企業で注目される背景、企業内でどのような業務に適用され始めているのかという具体的な取り組み、さらに導入時に直面しやすい“3つの壁(ハルシネーション/セキュリティ/システム連携)”を解説します。
- 目次
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- 【情報システム部】「デジタルSRE」による障害対応と開発の自律化
- 【人事・総務】規程照会、申請処理、採用面接の一次対応
- 【営業・マーケティング】リード分析、メール自動生成、SFAへの入力代行
- 【経理・財務】請求書照合、経費精算の不正検知と承認フロー自律化
はじめに
「指示待ち」から「自律実行」へ。企業DXの新たな主役「AIエージェント」
ChatGPTの登場により、多くの企業が生成AIの導入に踏み切りました。その結果、メールのドラフト作成や議事録の要約など、「個人のデスクワーク」における生産性は確実に向上しています。しかし、活用が進むにつれて新たな課題も見えてきました。「AIが完璧なメール案を作っても、送信ボタンを押すのは人間」 「会議の要約はできても、その内容をSFA(営業支援システム)やプロジェクト管理ツールに登録するのは人間」 つまり、「思考」のサポートは生成AIが担えるようになりましたが、システム操作などの具体的な「実行」は、依然として人間が手作業で行っているのです。
今、世界のテックトレンドは、人間が問いかけて答えを得る「対話型の生成AI」から、目的を達成するために動く「自律実行型のAIエージェント」へと急速にシフトするとされています。 従来の生成AIが「賢い相談相手」だとすれば、AIエージェントは「目的を与えれば、自ら考え、ツールを使いこなし、業務を完遂する」「デジタルな実務担当者」です。
これは単なるツールの進化ではありません。労働人口の減少が加速する日本企業にとって、AIエージェントは「システムの中に住む労働力」として、DX(デジタルトランスフォーメーション)のラストワンマイルを埋める存在として期待されています。
なぜ今、大手企業がこぞってAIエージェントに注目するのか
特に従業員数数千名規模の大手企業において、AIエージェントへの注目度が急上昇している理由は、「組織横断的な業務プロセスの自動化」が可能になるからです。
これまでのRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は、定型業務の自動化には貢献しましたが、「イレギュラー対応」や「判断が必要な業務」には無力でした。一方、AIエージェントはLLM(大規模言語モデル)の推論能力を持ち合わせているため、以下のような高度な振る舞いが可能です。例えば
- 曖昧な指示の理解:「来週の会議設定しておいて」という指示から、参加者の空き時間をカレンダーで調べ、会議室を予約し、招待メールを送る。
- 複数システムの操作: CRM(顧客管理システム)からデータを引き出し、集計し、Slackで上司に報告する。
このような人間が複数のアプリケーションを行き来して行っていた「繋ぎの業務」を代替できる点が、縦割り構造や複雑なシステム環境を持つ大手企業の課題感と合致しているのです。
概念の理解から、自社システムへの実装・定着までの道筋を知る
本記事では、AIエージェントの基礎知識から、大手企業ならではの活用事例、そして導入時に必ず直面する「セキュリティ」と「システム連携」の壁について解説します。
特に、多くの企業がPoC(概念実証)で躓く「AIは賢いが、社内システムと繋がらない」という課題に対し、企業はいかにしてセキュリティと連携の壁を突破し、実用化へ繋げるべきか、その具体的な導入戦略と技術的アプローチを解説します。読み終える頃には、貴社のDX推進における次の一手が見えているはずです。
AIエージェントとは?ビジネスにおける定義と役割
従来の「生成AI(ChatGPTなど)」との決定的な違い
「AIエージェント」と「生成AI」は混同されがちですが、ビジネスにおける役割は明確に異なります。
| 生成AI (Generative AI) | AIエージェント (AI Agent) | |
|---|---|---|
| 主な役割 | コンテンツ生成、情報の提示 | タスクの実行、問題解決 |
| 動作原理 | ユーザーの指示(プロンプト)に反応する | 目標(ゴール)に向かって自律的に計画・行動する |
| ツール利用 | 基本的にテキストチャット内での完結 | 外部ツール(メール、カレンダー、DB、API)を操作する |
| 人間との関係 | アドバイザー、アシスタント | パートナー、代行者 |
例えば、「競合他社の最新ニュースを教えて」と聞いた時、情報をまとめて表示するのが生成AIです。
対してAIエージェントは、「競合の動向を毎朝チェックし、重要な動きがあれば営業チームのSlackに要約を投稿し、関連する社内資料を更新しておいて」という複合的な指示を、毎日自律的に実行します。
「RPA」との住み分け:定型業務はRPA、判断業務はAIエージェント
大手企業では多くの企業にRPAが浸透していますが、AIエージェントはRPAを置き換えるものではなく、「RPAが苦手だった領域をカバーするもの」です。
- RPAの得意領域:手順が100%決まっている定型業務(決まったフォーマットの転記など)。
- AIエージェントの得意領域:判断が必要な非定型業務、あるいは手順がその都度変わる業務。
RPAはWebサイトのデザインが少し変わっただけで、エラーのためRPAが止まってしまいますが、AIエージェントは「画面のここにあるボタンを押せばいい」と視覚的に理解(マルチモーダル認識)したり、エラーが出た際に「別の方法を試す」といった自己修正を行ったりすることが可能です。
企業におけるAIエージェントの基本構造(認識・思考・行動)
AIエージェントが自律的に動けるのは、以下の3つのプロセスをループさせているからです。
- 認識 (Perception):
- ユーザーの指示や環境の変化(メール受信、データ更新など)を感知する。
- 思考 (Brain):
- LLMを用いて、「今何をすべきか」を推論する。
- タスクを分解し、計画(プランニング)を立てる。
- 「過去の記憶」や「社内ナレッジ」を参照する。
- 行動 (Action):
- 「ツール利用」を行う。ここが最も重要です。
- APIを叩いてシステムを操作したり、コードを実行したりして、現実世界(デジタル空間)に干渉します。
企業導入において最もハードルが高いのが、この「3. 行動」の部分です。AIに安全に「社内システムを触らせる権利」をどう与えるかが、成功の分かれ道となります。
【部門別】AIエージェントによる企業活用事例と業務効率化
ここでは、「人間がAIに相談する」フェーズを超え、「AIが主体となってシステムを操作し、業務を完遂する」という、AIエージェント活用事例を紹介します。
【情報システム部】「デジタルSRE」による障害対応と開発の自律化
IT部門では、AIエージェントが「24時間365日稼働するエンジニア」として振る舞います。従来のサーバー障害の自律修復は監視ツールからのアラートを見て人間が対応していましたが、AIエージェントは自ら動きます。
検知・診断:アラートを検知すると、AIがサーバーに接続し、ログを解析して根本原因を特定。
処置実行:過去の対応履歴に基づき、再起動やキャッシュクリア、パッチ適用などのコマンドを自律的に実行。
報告:復旧を確認した後、チケット管理システムに「発生事象・対処内容・結果」を自動起票してクローズする。 人間は、翌朝にAIからの「事後報告レポート」を確認するだけです。
完全自律型のデバッグとコード修正 AIエージェントに「このバグを直して」と指示するだけで、リポジトリからコードを読み込み、修正案を作成するだけでなく、ビルドを実行し、テスト環境で動作確認を行い、エラーが出れば再度修正するというループを自律的に回します。正常動作を確認して初めて、人間に承認依頼を投げます。
【人事・総務】規程照会、申請処理、採用面接の一次対応
バックオフィス業務は、AIを活用して改善できる「問い合わせ対応」や「書類確認」などの業務が数多く眠っています。
- 規程照会と申請代行:
社員からの「慶弔休暇は何日取れる?」という質問に対し、就業規則PDFを読み込んで回答。さらに「申請しますか?」と聞き返し、人事システムへの申請ドラフトを作成する。 - AI面接官:
一次面接をAIエージェントが代行。候補者の回答を深掘りする質問を行い、そのやり取りを評価シート(S/A/B/C評価案付き)にまとめて採用担当者に提出する。
【営業・マーケティング】リード分析、メール自動生成、SFAへの入力代行
営業担当者が最も嫌う「事務作業」をAIエージェントが巻き取ります。
- インサイドセールス代行:
Webサイトからの資料請求に対し、顧客の企業情報をWebで調査。その企業の課題を仮説立てし、パーソナライズされたアポイント打診メールを自動送信する。 - SFA(営業支援システム)入力:
商談の録音データから、AIエージェントが「予算」「決裁者」「ネクストアクション」を抽出し、Salesforce等のSFAにある該当フィールドへ自動入力する。
【経理・財務】請求書照合、経費精算の不正検知と承認フロー自律化
正確性が求められる経理業務でも、AIエージェントの「ダブルチェック」能力が活かされます。
- 請求書照合(突合):
PDFで届いた請求書と、発注システムのデータをAIが照合。「金額が1円合わない」「明細行が違う」といった差異を見つけ出し、担当者にハイライトして報告する。 - 経費精算の一次承認:
提出された領収書画像と申請内容をチェック。「接待交際費なのに人数が記載されていない」「休日の利用である」などの規程違反を検知し、本人への修正依頼(差し戻し)を自動で行う。
導入前に知っておくべき「3つの壁」とリスク
夢のようなAIエージェントですが、いざ導入しようとすると大手企業特有の「壁」にぶつかります。
【ハルシネーションの壁】企業として許容できない「嘘」をどう防ぐか
生成AIは、もっともらしい嘘(ハルシネーション)をつくリスクがあります。
クリエイティブな作業なら許されますが、「在庫数を間違えて発注する」「誤った契約条件を顧客に送る」といったミスは企業にとって致命的です。
対策:AIに全権を委任せず、最終的な実行(メール送信や発注確定)の手前で「人間による承認」のプロセスを組み込む設計が必須です。
【セキュリティの壁】社内機密データを外部AIに渡さないガバナンス
AIエージェントに業務をさせるには、社内の極秘データ(人事情報、売上データ、技術資料)を読ませる必要があります。
「ChatGPTにデータを入力したら学習に使われてしまうのでは?」という懸念は、情報システム部にとって最大の障壁です。
対策:「学習データとして利用されない」ことが保証されたエンタープライズ環境の構築や、個人情報をマスキングしてAIに渡す中間処理の実装が必要です。
【システム連携の壁】AIは「手足」がないと動けない
そして、最も多くのプロジェクトが頓挫するのがこの「システム連携」です。
AIエージェントが「在庫を確認したい」と思っても、貴社の基幹システムはAIからのアクセスを受け付けるAPIを持っていますか?
多くの大手企業のシステムは、何十年も前に作られた「レガシーシステム」や、部門ごとにバラバラに導入されたSaaS(サイロ化されたデータ)の集合体です。AIにとっては、「知能はあるが、手足が縛られている(システムに触れない)」状態なのです。
なぜAIエージェントは既存システムと繋がれないのか?
- システムが古い(COBOL等で動いておりAPIがない)。
- データベース構造が複雑怪奇で、AIが理解できるスキーマになっていない。
- セキュリティが強固すぎて、外部からの接続を一切遮断している。
この「連携の壁」を突破しない限り、AIエージェントはただのチャットボットで終わってしまいます。
成功のカギは「AIが自由に動けるシステム基盤」の構築にある
AIエージェント導入=「AIそのもの」+「つなぐ技術」のセット検討
AIエージェントを成功させるためには、賢いAIモデルを選ぶこと以上に、「AIがシステムを操作しやすい環境(インターフェース)を用意すること」が重要です。
これを「AIオーケストレーション」や「グラウンディング」と呼びますが、要はAIのためのAPI基盤を整えるということです。
既存のモノリシック(巨大な一枚岩)なシステムではAIが窒息する
従来の「モノリシック」な巨大システムは、機能がスパゲッティのように絡み合っており、一部の機能だけをAIに開放することが困難です。
「在庫確認機能だけ使いたいのに、システム全体へのログインが必要」といった構造では、AIエージェント開発は複雑化し、メンテナンスも不可能です。
求められるのは、AIがシステムと「対話」できるインターフェースの整備
AIエージェントが活躍するために、必ずしもシステム全体を最新のアーキテクチャに作り変える必要はありません。重要なのは、AIが外部から指示を送れる「窓口(インターフェース)」が存在することです。
その実現方法は、自社の状況に合わせていくつかのアプローチが考えられます。
・API連携 / ラッパー開発:既存の基幹システムにAPIサーバー(ラッパー)を被せ、外部から特定の機能だけを呼び出せるようにする。
・iPaaS(統合基盤)の活用:SaaSや社内DBを繋ぐハブとなるツールを導入し、AIはそのハブに対して指示を出す。
・機能の部品化(モジュール化):頻繁に改修が必要な領域だけを切り出し、独立して動くようにする。
どの手段を選ぶにせよ、AIエージェント導入の本質は、システム内部の構造をどうするかではなく、「AIが安全かつ確実にシステムを操作できるルートをどう確保するか」という接続性(コネクティビティ)の問題に帰着します。
株式会社ラキールが提案する「AIエージェント×マイクロサービス」の実装
しかし、多くの企業で壁となるのが、「複雑化した巨大なレガシーシステムに対し、どうやって安全な接続口(インターフェース)を作るか?」という点です。
既存システムに無理やりAPIを繋げば動作が不安定になるリスクがあり、かといってAI対応のためにシステム全体をフルスクラッチで作り直すには、莫大なコストと時間がかかります。その「既存システムの制約」と「AI連携の柔軟性」というジレンマを解消する解決策となるのが、株式会社ラキールが提供するデジタルビジネスプラットフォーム「LaKeel DX」です。
なぜラキールなのか?「AIツール」と「既存システム」の両方を知り尽くした総合力
多くのAI導入プロジェクトが停滞するのは、AIベンダーが「ツールの導入」までは支援してくれても、その先の「複雑に入り組んだ既存システムとの連携」までは手を出せない(理解できない)からです。
ラキールは、長年にわたり企業の基幹システム開発を手掛けてきた「技術力」と、最先端のクラウド基盤を提供する「製品力」の両方を持っています。
LaKeel DXのマイクロサービス(部品)は、『呼び出しやすいAPI(=使いやすい道具)』そのものであるため、「AIエージェントを入れたい」というご相談に対し、単なるAIの提供に留まらず、AIが動くために不可欠な「裏側の泥臭いデータ整備」や「レガシーシステムとの安全な接続」までを一気通貫で引き受けられる点こそが、他社にはない最大の強みです。
AIエージェント導入に向けたロードマップ
実際にAIエージェント導入を進めるためのステップをご提案します。
現状の業務フローとデータ環境の棚卸し
まずは「どの業務をAIに任せたいか」のリストアップと、その業務に必要な「データはどこにあるか(SaaSなのか、基幹システムなのか)」を整理します。
小さく始めて大きく育てる
AIエージェントの導入において最も避けるべきは、最初から全社規模で「ビッグバン導入」を目指すことです。業務プロセスは部門ごとに複雑であり、一気に変えようとすれば現場の混乱と反発を招きます。
まずは「特定部門の、特定の単一タスク」に絞ってPoC(概念実証)を行うことが鉄則です。 例えば、「情報システム部のパスワードリセット対応」や「営業部の反社チェック業務」など、「フローが明確で、かつ頻度が高い業務」を選定します。ここで「AIに任せても大丈夫だ」という確実な成功体験と定量的な成果(削減時間数)を作り、それを社内の他部門へ横展開していくステップが、最もリスクが低く、現場の納得感を得やすい進め方です。
将来展望:人間とAIが共存する「AIネイティブ」な企業システムへ
AIエージェントが普及した先には、業務システムの在り方そのものが変わる未来が待っています。 これまでは「人間が画面を見て操作する」ことを前提にシステムが作られていましたが、これからは「AIエージェントがAPIを通じて操作する」ことが前提となります。
システムはより柔軟で、AIがアクセスしやすい構造(APIファースト)へと進化し、人間は「AIへの指示出し」と「最終判断」という、より付加価値の高い業務に集中するようになります。 法改正やビジネスモデルの変化があっても、AIに与える「指示(プロンプト)」や「参照データ」を変えるだけで業務フローを即座に適応させる。そんな「変化に強い、しなやかなITインフラ」を構築できた企業こそが、次世代の競争力を手にすることになるでしょう。
まとめ
AIエージェントは「魔法」ではない。土台となる「システム連携」が成功のカギ
AIエージェントは、企業の業務効率を劇的に改善する可能性を秘めています。しかし、それは「魔法の杖」ではありません。
AIが真価を発揮するためには、AIが安全かつスムーズに社内データや機能にアクセスできる「システム連携のしやすさ」が重要になります。 既存のシステムが複雑に入り組んでいる場合でも、API連携基盤を整えたり、機能単位で切り出しやすく(マイクロサービス化)したりすることで、AIエージェントの守備範囲を広げ、変化に強い柔軟な構造を作ることができます。
この「足回りの整備」をおろそかにしてAIツールだけを導入しても、AIは手足を縛られたままで、期待通りの成果を出すことは難しいでしょう。
技術と実績を兼ね備えたラキールに、貴社のAI戦略をご相談ください
「既存システムが古くてAI連携なんて無理だ」
「セキュリティリスクが怖くて踏み出せない」
「ツールを入れるだけでなく、自社に合わせた開発まで頼みたい」
そのようなお悩みをお持ちのDX担当者様、情報システム部門の皆様、貴社の現状の課題や、実現したい未来について、ぜひご相談ください。まずは特定業務のPoCから、システム連携の実装までをワンストップで支援します。
このコラムを書いたライター

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