バイブコーディングとは?仕組みやできることをわかりやすく解説 ~「攻めの内製化」と「守りの基幹」、2つの環境におけるAI活用とリスク管理~

現代の企業経営において、DX(デジタルトランスフォーメーション)は待ったなしの課題です。その中でも、新しいサービスや社内ツールの開発速度をいかに上げるかは、DX成功の鍵を握っています。
近年、生成AI(Generative AI)の進化によって、ソフトウェア開発のあり方が大きく変わりつつあります。その中でも注目されているのが、「バイブコーディング(Vibe Coding)」という新しい開発スタイルです。「コードを書かずに開発する」という概念は、既に馴染みのある「ノーコード・ローコード」開発と重なるかもしれません。しかし、バイブコーディングは、これらとは一線を画す特性を持っています。
本記事では、バイブコーディングの基礎知識に加え、企業が直面する二つの異なるテーマをもとに、リスク管理と導入指針について解説します。
- 【DX推進・内製化】:新規アプリ開発、業務効率化ツールの迅速な提供。
- 【情シス・保守運用】:基幹システムの安定稼働、セキュリティ担保、技術的負債の解消。
- 目次
バイブコーディングとは?―AI時代の新しい開発手法
バイブコーディング(Vibe Coding)とは、生成AIに自然言語で指示を出してコードを生成する開発手法で、近年議論が広がった概念となります。
従来のように人間が一行ずつコードを書くのではなく、開発者はAIに「こういう機能を作りたい」とプロンプト(自然言語による指示)を出すだけで、AIが自動的にコードを生成・修正してくれます。
この概念は2024年2月、著名なAI研究者であるAndrej Karpathy氏によって提唱されました。「Vibe(ノリ・感覚)」と「Coding(コーディング)」を組み合わせた造語で、開発者が感覚的に“AIと一緒に作る”体験を重視する点が特徴です。
バイブコーディングの仕組み
バイブコーディングの中心には、大規模言語モデル(LLM)があります。GeminiやChatGPTのような生成AIがこれに該当し、自然言語の指示をもとにPython、JavaScript、C#など多様な言語のコードを生成します。
【一般的な開発フロー】
- 指示出し:開発者が自然言語で要件を伝える。(例:「ユーザー登録画面を作って」)
- 生成:AIが指示をもとにコードを生成する。
- 確認・修正:開発者が動作を確認し、改善点を自然言語で再指示する。
- 再生成:AIが修正コードを生成する。
このように、人間とAIが対話を通じてコードを共同生成するのがバイブコーディングの本質です。人間の役割は、複雑なロジックを暗記したり、構文を細かくチェックしたりする作業から解放され、より上流工程(ビジネス要求の定義、ユーザー体験の設計)に注力できるようになります。
企業導入で注目すべきAIツールのタイプ
IT担当者は、導入目的(内製化か、既存保守か)に応じてツールを選定する必要があります。大きく分けて以下の2タイプが存在します。
| ① 統合型アシスタント(生産性向上アプローチ) | ② エージェント型生成ツール(内製化・試作促進アプローチ) | |
|---|---|---|
| 特徴 | 既存のIDE(VS Code等)に統合され、「副操縦士(Copilot)」として支援。主体はあくまで人間。 | 開発環境全体をAIが担う。「やりたいこと」を伝えれば、UIや骨格全体をゼロから生成する。 |
| 用途 | 熟練エンジニアの生産性向上、保守運用の工数削減。 | 非エンジニアによるプロトタイピング、業務アプリ内製化、アイデア検証。 |
| 代表例 | GitHub Copilot, Cursor, Gemini for Google Cloud | v0 (Vercel), Replit, Magic系ツール、 devin |
企業・組織が導入するメリットとDXへのインパクト
バイブコーディングは、新規開発と保守運用の双方に強力な推進力を与えます。
- 開発速度の劇的な向上(プロトタイピングの高速化)
反復的なタスクをAIが自動化するため、アイデアからMVP(最小実行可能製品)に至るまでの時間を劇的に短縮できます。PoCにかかる期間を短縮でき、「小さく試して、速く失敗し、すぐに修正する」アジャイルな開発が可能になります。
- 「内製化」のハードルが下がる可能性
現時点では、AIによって生成したコードの扱いに一定の知識が求められますが、技術は日々進化しています。 近い将来、例えば経理や人事といったバックオフィス部門の非エンジニアであっても、業務知識と自然言語の指示だけで、日々の定型業務を自働化するような「簡単なアプリ」を自作できる時代が来るかもしれません。
- コミュニケーションコストの削減
従来の「仕様書」ベースのコミュニケーションから、「動くコード」がコミュニケーションの中心となることで、ビジネス部門とIT部門間の誤解や手戻りが大幅に減少します。
- レガシーシステムの解析とモダナイゼーション
AIに既存の難解なコードを解析させ、「機能の説明」や「現代的な言語への書き換え」を指示することで、システムの若返り(モダナイゼーション)を加速できます。
IT担当者が直視すべきリスクと課題
企業のIT担当者にとって最大の課題は、性質の異なる『新規内製化プロジェクト』と『既存基幹システム』の双方において、固有のリスクを管理しながらAIをどう扱うかという点にあります。
【新規開発・内製化】におけるリスク(統制・保守)
- 「野良アプリ」の乱立とシャドーIT化
非エンジニア社員がAIで簡単にツールを開発できるようになると、情シスの管理外で保守性のないアプリが量産され、業務のブラックボックス化やセキュリティホールを生む恐れがあります。
- 技術的負債の蓄積
バイブコーディングは「動くこと」を優先しがちですが、企業システムでは「将来の変更容易性(保守性)」が極めて重要です。AI生成コードが複雑で最適化されていない場合、短期的な速度と引き換えに、長期的な技術的負債を生む可能性があります。
【既存システム・保守運用】におけるリスク(信頼性)
- 機密情報の漏洩・学習リスク
顧客情報や基幹システムのコードを安易にAIに入力すると、外部モデルに学習され、情報が流出する最大のリスクとなります。
- コード品質と信頼性の担保(ハルシネーション)
AIが生成したコードは、一見動作しても、セキュリティ脆弱性や論理的な欠陥が含まれる可能性があります。これは人間の目による検証なしでは防げません。
- 法的リスク(著作権・責任分界点)
AI生成コードの著作権問題や、システム不具合時のベンダー(SIer)との責任の所在が曖昧になる可能性があります。
AIガバナンスと導入ロードマップ
リスクを効果的にコントロールするためには、シチュエーションに応じた「守り」と「攻め」のガバナンス設計が必要です。ガバナンスの設定例をご紹介いたします。
【内製化・DX推進】攻めのガバナンス
- ルール①:レビューの義務化と「利用ツールの限定」
- 承認フローの策定:非エンジニアが作ったコードの「本番利用」は、情シスのセキュリティ・保守性レビュー通過を必須とします。
- ツール限定:情シスが承認した、エンタープライズ契約済みで、データ保護が保証されたツールのみを許可します。
- ルール②:教育と認定制度
- AIの提案を鵜呑みにせず吟味できるよう、プロンプトエンジニアリング等の研修を必須化し、社内開発者の認定制度を設けます。
【保守運用・既存システム】守りのガバナンス
- 対策①:入力データ制限とエンタープライズ契約の徹底
- データ保護:基幹システム関連のデータは、学習に使われない設定(オプトアウト)や専用環境でのみ扱います。
- 契約徹底:AIツールは、必ず「入力データの非学習保証」を含むエンタープライズプランを選択し、法務部門と連携して契約内容を徹底的に精査します。
- 対策②:ベンダーとの責任分界点の見直し
- 「AIによる解析やテストコード生成は情シス」「最終品質保証とデプロイはベンダー」など、AI活用時の責任範囲を契約書に明記します。
バイブコーディング時代の人材育成と組織変革
求められるスキルセットの変化
これからの人材には、「構文を暗記する力」ではなく、「AIの生成物を評価し、改善の指示を出す力(設計・レビュー力)」が求められます。
- プロンプトエンジニアリング:抽象的な要求を、AIが理解できる具体的指示に落とし込む力。
- 設計思考・アーキテクチャ理解:AIが生成したコードの断片を、堅牢なシステムとして統合するためのアーキテクチャ設計能力。
情シス・DX推進室の役割転換
情シスやDX推進室といった企業のIT担当者は開発の「実行者」から、全社の「AI活用推進者(イネーブラー)」へ変わる必要があります。
- 環境整備:安全にバイブコーディングが実施できるツールの選定、契約、環境構築を行う。
- 教育・啓蒙:社員向けにAIへの指示方法(プロンプト)や、生成コードのレビュー方法に関する研修を実施する。
- 標準化:生成された社内アプリを管理するためのプラットフォームや標準を定義する。
まとめ:AIと共創する体制へ向けて
バイブコーディングは一時的な流行ではなく、「開発の民主化」をもたらす不可逆な変化です。技術の進歩により、さらに複雑なシステムもAIと共に構築されるようになるでしょう。
DX推進室やIT部門には、この変化を単なるコスト削減策としてではなく、全社的な生産性向上のチャンスと捉える姿勢が求められます。いきなり基幹システムへ適用するのではなく、リスクの低い内製化領域でPoC(概念実証)を実施し、自社なりのガバナンスノウハウを蓄積すること。これが、最も現実的かつ安全な第一歩と言えるでしょう。
AI時代の「攻め」と「守り」を両立するプラットフォーム「LaKeel DX」
AIによってコーディングが高速化する一方で、生成された膨大なコードの正当性を検証し、将来にわたって保守し続けるのは、依然として「人間のエンジニア」の責任です。AIを活用しコーディングの効率化を図ることは、生産性の向上につながりますが、結局のところ「1からコーディングする」という点に変わりはなく、「品質責任」と「保守責任」は残り続けます。
ラキールが提供するクラウド型アプリケーション開発運用基盤「LaKeel DX」は、稼働実績のある品質の高いコードを部品として管理、再利用することで、「新たに開発するコード量を減らす」というアプローチによって、真の生産性向上を図る開発基盤です。
AIで「部品」を作り、組み合わせる新体験
LaKeel DXは、システムを「コンポーネント」と呼ばれる部品単位で開発・管理するクラウドネイティブ基盤です。 新機能である「LaKeel AI Navigator」を活用すれば、まさにバイブコーディングの世界観を実現できます。チャットで指示を出すだけで、AIが最適な部品を選択・構築し、ユーザーが求める画面を瞬時に作成します。
「LaKeel DX」が選ばれる理由
単にコードを生成するだけでなく、企業システムとして必要な「ガバナンス」と「スピード」を以下の仕組みで両立します。
技術的負債の解消(守り): 作成された機能は、画面部品(マイクロフロントエンド)やビジネスロジック(マイクロサービス)として独立して管理されます。これにより、コードのスパゲッティ化を防ぎ、将来的な拡張や改修も容易になります。加えて、機能や技術が陳腐化した際も、その部品だけをピンポイントで差し替え可能です。システム全体を作り直す必要がないため、技術的負債化を回避し、システムの寿命(ライフタイム)を飛躍的に延ばすことができます。
品質担保と再利用(攻め): 一度開発し、品質が検証されたコンポーネントは「企業の技術的資産」として蓄積されます。これらをレゴブロックのように再利用することで、開発工数を劇的に削減しながら、安定したシステムを素早く構築できます。
エンジニア不足の解消: ローコード/ノーコード開発に加え、AIによる支援機能により、高度なエンジニアでなくとも本格的なクラウドネイティブアプリケーションの実装が可能です。
「AIの力で開発を加速させたいが、システムの統制も失いたくない」。 そのような課題をお持ちの方は、ぜひLaKeel DXの導入をご検討ください。
このコラムを書いたライター

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